TOPへ

ブログ

チルゼパチドの肥満改善効果は? 〜SURMOUNT-J試験を解説〜

はじめに

ダイエットに挑戦してもなかなか成果が出ない――。そんな悩みを持つ方にとって、医療的アプローチは新たな選択肢となります。2025年に発表されたSURMOUNT-J試験では、日本人を対象に、週1回の注射薬「チルゼパチド(tirzepatide)」の肥満症に対する効果と安全性が検討され、非常に注目すべき結果が得られました。

今回は、この臨床試験の内容を一般の方にもわかりやすく解説します。肥満に悩む方、治療を検討されている方はぜひご一読ください。

チルゼパチドとは?

チルゼパチドは、「GIP(胃抑制ポリペプチド)」と「GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)」という2つのホルモンの受容体に働きかける新しいタイプの注射薬です。これらはどちらも食後の血糖コントロールに関わるホルモンで、

  1.  ・食欲の抑制
  2.  ・胃の動きをゆるやかにする
  3.  ・血糖値の改善
  4.  ・脂肪の燃焼促進

など、多面的に作用します。日本では「マンジャロ」という製品名で2型糖尿病治療薬として2022年に承認されており、同じ成分を含む「ゼップバウンド」が2025年に肥満症に対しても承認・保険収載されました。(※後述の注意書きをご参照ください)

SURMOUNT-J試験とは?

この研究は、チルゼパチドを肥満症の日本人に使った場合の減量効果や安全性を確認するために実施されたものです。

試験の概要

対象:肥満症の日本人成人(BMI 27以上で関連疾患2つ以上、またはBMI 35以上で関連疾患1つ以上)

除外:糖尿病のある人は対象外

方法:3群に無作為に分け、週1回の皮下注射を72週間継続

 ・プラセボ群(薬なし)

 ・チルゼパチド10mg群

 ・チルゼパチド15mg群

  全員に栄養・運動指導あり

主な結果:平均で−17.8%〜−22.7%の体重減少

72週後の平均体重の変化率は以下の通りでした:

 ・プラセボ(薬なし):−1.7%

 ・チルゼパチド10mg:−17.8%

 ・チルゼパチド15mg:−22.7%

20kg近く減量した方も少なくなく、これは従来の生活習慣改善では得られにくいレベルの成果です。

減量達成率(目標達成者の割合)

5%以上の減量に成功した方:

 ・プラセボ(薬なし):20%

 ・10mg:94%

 ・15mg:96%

20%以上の減量に成功した方:

 ・プラセボ(薬なし):0%

 ・10mg:39%

 ・15mg:64%

このように、非常に多くの方が有意な体重減少を達成しました。

体重以外にも、健康状態が大きく改善

チルゼパチドは体重減少だけでなく、以下のような肥満関連疾患にも改善効果を示しました。

 ・耐糖能異常(血糖がやや高め)

 ・脂質異常症(中性脂肪やコレステロールの異常)

 ・非アルコール性脂肪肝(MASLD)

各疾患に対する改善率(72週時点)

 ・耐糖能異常:93〜98%が正常化または著明な改善

 ・脂質異常症:72〜81%が改善

 ・脂肪肝:69〜77%で肝脂肪の著明な減少

加えて、腹囲、血圧、尿酸値、肝酵素などもすべて良い方向に改善されました。

安全性:副作用は主に胃腸症状

もっとも多く見られた副作用は、

・吐き気

・便秘

・下痢

などの消化器症状でした。これらはチルゼパチドに特有というより、同じGLP-1系の薬剤に共通して見られるもので、多くは使用初期に起こります。

重大な副作用は少なく、治療の継続が困難となった方はごくわずかでした。

 

チルゼパチド治療が向いている方

  1.  ・生活習慣の改善だけでは体重が減らない
  2.  ・食欲が強く、過食を抑えたい
  3.  ・内臓脂肪や脂肪肝を改善したい
  4.  ・将来の糖尿病や高血圧を予防したい

こういった方には、医師の管理のもとでのチルゼパチド治療が選択肢となりえます。

まとめ

SURMOUNT-J試験は、チルゼパチドが日本人においても非常に高い体重減少効果を示すことを明らかにしました。また、観察期間である72週の終了時点でも体重減少はプラトーに達しておらず、今後もさらなる減量が期待される可能性があります。それだけでなく、血糖・脂質・肝機能などの全身的な健康状態も大きく改善され、安全性も良好と報告されています。

肥満は「治療可能な病気」です。医師の判断のもと、適切な治療を受けることで、人生の質(QOL)を大きく改善することが可能です。気になる方は、まずは医師へご相談ください。

  1. 注意事項(医療広告ガイドラインに基づく表記)
  2. 本記事で紹介したチルゼパチドは、肥満症に対する有効性と安全性がSURMOUNT-J試験により科学的に示されましたが、当院で使用している「マンジャロ(Mounjaro)」は2型糖尿病治療薬として承認された薬剤であり、肥満症に対しては適応外使用となります。そのため、マンジャロを肥満症に対して使用する場合は、厚生労働省の定めるガイドラインに従い、医師が医学的に必要と判断し、文書による同意を得たうえで自由診療として実施しております。治療効果には個人差があり、すべての方に同様の結果が得られることを保証するものではありません。治療を希望される場合は、医師の診察のうえ、適応と安全性を慎重に判断いたします。

https://www.thelancet.com/journals/landia/article/PIIS2213-8587(24)00377-2/abstract

治療希望の方は下記リンクをご参照ください↓

https://www.azabujuban-clinic.jp/news/#a1294