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性同一性障害

性同一性障害(GID)とは

性には複雑な側面があり、一般的に男性と女性の2つの性別しかないとされていますが、これは誤りです。性には生物学的な性(身体の性)と自己認識における性(ジェンダー・アイデンティティ)の2つの側面があり、これらが一致しない状態を「性同一性障害」と呼びます。性同一性障害は同性愛やトランスヴェスタイト(異性装)とは異なり、自己の性別認識と身体の性が一致しないことが特徴です。

同性愛は性愛の対象として同性を好む嗜好のことで、性同一性障害の人々の中にも異性愛者や同性愛者、両性愛者など、多様な性的指向が存在します。性同一性障害を理解することは重要であり、それは性において単純な二元論ではなく、多様性と複雑性が存在することを示唆しています。異なる性のアイデンティティや性的指向に対して尊重と理解を深め、包括的な社会を築くことが求められています。

FTM(FEMALE-TO-MALE)

生物学的には女性であるが、性の自己認識が男性である個人や、女性から男性へ性を移行させた人、または移行途中の人や移行を望んでいる人のことを指します。

MTF(MALE-TO-FEMALE)

生物学的には男性であるが、性の自己認識が女性である個人や、男性から女性へ性を移行させた人、移行途中の人や移行を望んでいる人のことを指します。

性同一性障害の診断

性同一性障害の診断は、豊富な知識と経験を持つ少なくとも2人以上の精神科医によって行われます。以下は診断の基本的な手順です。

    1. 生物学的性の決定(身体の性)
    2. ジェンダー・アイデンティティの決定
    3. 生物学的性とジェンダー・アイデンティティの不一致の確認
    4. 除外診断基準の確認

当院では性同一性障害の診断は出来かねます。まだ診断がついていない方に対しては診察したうえで、必要に応じて医療機関をご紹介いたします。

 

性同一性障害の治療

性同一性障害の治療は、段階的に進められ、主に精神療法、内分泌療法(ホルモン療法)、手術療法の3つのアプローチがあります。当院では、診断がついた患者かつ治療を希望する方に対して、主にホルモン療法を提供しています。

治療を始める際には、専門医による正確な診断書が必要であり、ホルモン療法中は定期的な肝機能、腎機能、多血症のチェックのため、半年から一年ごとの血液検査が推奨されています。他院でホルモン療法を受けている方でも、当院でのご相談を歓迎しています。

費用

 

初診料 2,800円
薬物治療を継続する場合には再診料は不要です
定期採血検査 約9,000円
一般採血のみ 5,500円
男性ホルモン補充療法
テストステロン注射(125mg) 2,500円(税込)
テストステロン注射(250mg) 4,000円(税込)

女性ホルモン補充療法
エストロゲン注射 
プロギノンデポ(10mg)
2,500円(税込)
エストロゲン 経皮吸収薬
ルエストロジェル
6,600円(税込)/本
ディビゲル 5,500円(税込)/28包

当院での治療

当院では「性同一性障害」の診断が確定し、社会への適応のサポートが行われた後、18歳以上で性別の不一致による苦悩が続く方に、ご本人の自己責任と自己決定のもとで性ホルモン注射剤療法を提供しています。

性ホルモン注射療法は、FTM(Female-to-Male)の場合にはアンドロゲン製剤を、MTF(Male-to-Female)の場合にはエストロゲン製剤を注射します。

MTF (男性から女性へ:Male to Female)

MTF(男性から女性への変更)の場合、女性ホルモンの投与により身体的な変化が始まり、注入開始後1~4ヶ月後には変化が見られ、半年後には不可逆の変化が現れることがあります。エストロゲンの投与によりアンドロゲン(男性ホルモン)濃度が低下し、体の女性化が進むことが期待されます。さらに男性ホルモンをおさえる薬を追加で投与することも効果的とされています。

身体的特徴の変化(MTFの場合)

  • 乳房が大きくなり、乳腺と脂肪が増加します。
  • 体脂肪の付き方が変わり、女性らしい顔つきとともに腰回りの脂肪が増えます。
  • 勃起力の低下、性欲の減少、精子量の減少が見られます。
  • 性格が女性的に変化し、感情表現が豊かになります(涙もろくなど)。
  • 男性型脱毛症の改善が見られ、頭髪が女性らしく変化します(毛が細くなり、密度が高まる)。
  • 性欲の低下や勃起の難しさ、生殖能力の低下(精子の変性)が発生します。成人男性の場合、声の変化や骨格の変化は期待できません。

FTM (女性から男性へ:Female to Male)

最近、GIDホルモン療法を始める女性が増えています。女性の場合、少ない注射量でも効果が実感でき、20代女性の月2回の通院で平均的なテストステロン血液中濃度を維持できています。しかし、テストステロン濃度上昇に伴い、ニキビができやすくなることが課題です。ニキビが気になる場合は保険診療での外用薬治療または内服治療が可能です。また当院ではニキビ肌に対する肌質改善のためのフォトフェイシャル(セレックV)治療が可能です。

身体的特徴の変化(FTMの場合)

  • 乳腺の収縮と皮下脂肪の減少により、乳房が縮小します。
  • 皮下脂肪の減少、筋肉増加、内臓脂肪の増加が見られます。
  • 生理が止まります。
  • 性格が男性化します。
  • ひげの発生と頭髪の減少があります。

*成人女性の場合、骨格の変化はそれほど期待できません。

ホルモン療法の注意事項

ホルモン療法は、凝固系や肝機能に影響を与える可能性があります。血液が固まりやすくなり、血栓ができやすくなるため、安定するまでは3ヶ月ごとに血液検査が行われ、異常があれば治療が調整されます。基本的に長期にわたって継続する治療のため、肝障害や凝固系に異常をきたすリスクが高く、定期的なフォローアップは必須になります。怪我や病気で手術が必要な場合、一時的にホルモン療法を中断することがあります。ホルモンの投与は筋肉注射で行われ、毎回異なる部位に注射することで筋肉の拘縮を防ぎます。注射薬以外の選択肢として皮膚から吸収させる経皮製剤や内服薬があります。

さらにその先を望まれる方へ

ホルモン注射療法による性転換は精神と身体の異性化をもたらしますが、戸籍上の性別変更には裁判所の決定が必要です。ただし、ホルモン療法だけでは認められず、外観上の性器の手術が必要です。男性は精巣と陰茎、女性は卵巣を取り除くことが要件に定められています。特定の手術は必須ではなく、許可を得るには裁判所が判断します。(今後修正される可能性があり、詳細は公的機関にお問い合わせください)

性転換手術のためには2名の精神科専門医の診断書が必要で、豊胸術や乳腺切除術は条件に含まれず、当院では他の専門医への紹介も可能です。

ホルモン療法の注意事項

ホルモン療法は特定の疾患や状態がある場合には施行できないか、施行には注意が必要です。

  • 血栓性静脈炎、肺塞栓症、およびその既往がある場合
  • 心臓疾患、腎臓疾患、およびその既往がある場合
  • 肝臓障害がある場合
  • 癌が診断されている場合(子宮内膜がん、乳がん、前立腺がんなど)
  • 抗凝固剤を服用している場合
  • 糖尿病患者で血糖下降剤を服用している場合

また、以下の条件が該当する場合には、健康であっても精神科専門医の診断書が必要です。

1.患者が未成年の場合 (当院では未成年に対してはホルモン療法は行っておりません)

2.未成年の扶養家族がいる場合

3.既婚でパートナーが子供を望んでいる場合